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なるほど、と思った。だから平日の朝も、汚れてもよさそうなクタっとした服を着て、三徳富士のゴミ拾いをしているのだ。
「家で仕事かあ。通勤しなくて良いのは楽そう」
ふつうに清宮と会話が成立している。そのことが嬉しくて、つい口調が砕けてしまう。
「そうだね、楽だよ」
清宮は話を広げようともせずに、またハーブティーを一口飲んだ。ソーサーに戻した弾みで、カップの中の紅茶色をした液体が揺れた。花の匂いが僅かにした。それを飲んだ清宮の口からも花の匂いがするのだろうか。そんなことをぼんやり考えた。
「でも、いつも一人で仕事をしてるんですか。つまらなくなりませんか」
慧は素朴な疑問を投げかけた。
自分には在宅勤務は無理そうだ。マイペースで仕事ができるのは楽そうだが、仕事仲間がいない、というのが寂しい。
「べつに――つまらなくはないよ。誰にも気を遣わずに済むし」
また清宮が面倒そうな顔をして、慧を一瞥した。ため息まで吐かれる。あからさまな態度に、少しカチンときた。
――やっぱり大人っぽくない。
大人だったら、もうちょっと負の感情は表に出さないように気を付けるものじゃないのか。大学生の自分のほうが、気を遣っている。
ちょっと苛々してきた。慧はアイスコーヒーに刺したストローを何度も噛んだ。こうするとストレス解消になる。
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