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曇った眼鏡越しに、意外と綺麗な双眸が見える。近視特有の、潤んだような目だ。鼻は少し低めで、眼鏡が若干下がっている。唇は乾燥しているが、形は良い。透明のリップを塗ったら若返りそうだ、なんてことを考えたところでハッと我に返った。じっくり男の顔を見てしまった。
「これからはちゃんとゴミ箱に捨ててね」
ふっと笑って、男は地面に置いたゴミ袋を持ち上げた。
「じゃ」
ゆっくりと駅の方向に向かって歩いていく彼に、思わず声をかけていた。
「あの、ひとつ持ちますよ」
男の両肩が下がっていて、いかにも疲れているように見えた。重そうだ。
「え?」
振り返った彼の顔は、戸惑うように揺れていた。
「いいからいいから。俺、暇だし」
さっきまであった眠気は、いつの間にか綺麗に消えていた。
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