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「運動不足解消に」
こちらを見ずに男が答えた。
「え、そんな理由?」
「悪い? 社会のためとか、ボランティア精神とか、そんなんじゃない」
男はうっとうしそうに慧を見たが、すぐに前を向いた。
「そうっすか」
なんとなく、期待していた答えじゃなかった気がして、がっかりした。なんかもっと――と思うものの、どう答えてほしかったのかは分からなくて、慧の心はモヤモヤした。
ほかにも質問はたくさん浮かんだ。名前は? 年はいくつ? どこら辺に住んでるの? どんな仕事をしてる? 既婚? それとも未婚? いつからゴミ拾いを? ……最後に出てきた質問が一番無難だと判断する。
「いつからゴミ拾いを?」
「半年ぐらい前から」
すごい。半年程度で、三徳駅の名物になれるのか。
彼の歩くペースが速くなった。自分がゴミを一つ持ってあげたから、楽になったのだろう。そう思い至って、あ、これだ、と気が付いた。
「良いことすると気持ちいいっすよね」
「――は?」
男が立ち止まり、ようやく慧の方を見た。怪訝そうに眉を寄せている。
――やば、口が滑った。
「僕が偽善を楽しんでるって?」
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