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「手伝うって――僕、頼んでないし」
男があきれたように鼻で笑った。怒るのも疲れた、というように肩を落とす。
「いいよ、その軍手あげる。家で草むしりでもすれば」
男が駅に向かってずんずん歩き出す。興味なし、とばかりに、一度も慧を振り返らない。
このままじゃ本当にここでお別れだ。
慧はちょっと考えて、それから男を追いかけた。
「待ってって。違うんだ。あんたの行動って、ほんと偉いと思ったから――ごめん、今の上から目線だったかも。えらいじゃなくて、凄い、だ。ひと目とか気になって、恥ずかしくて、ふつうこういうことできないのに、一人じゃ。なのにあんた、平気そうにやってるから。凄いって。俺は一人じゃできないから、あんたの仲間にしてほしいんだ」
必死に言いつのった。相手が喜びそうなことをできるだけ考えて言葉を絞り出す。
とりあえず必死さは伝わったらしい。圧倒されたように、男の顔が固まった。
「そんなに言うなら――一緒にやろうか。ふたりの方が効率良いしね」
まだ半信半疑のようだ。男の表情はぎこちない。それでも仲間にしてくれる、と言った。
「じゃあ、次の燃えるゴミの日に、さっき会った場所で」
「はい」
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