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清宮
四月某日。六時半。
清宮潔(きよみやきよし)は、いつものように目覚まし時計が鳴る前に目を覚ました。
上体を起こし枕元にある眼鏡をかける。ベッド脇にあるテーブルからスマホを取り上げ、音楽アプリを開く。昨日ダウンロードしたばかりのメタルバンドの曲を再生する。
激しくドラムを打ち鳴らす音が聞こえてくるが、その軽さにがっかりする。本当はスピーカーとつなげて大音量で聞きたいところだが、近所迷惑になるから諦めている。
「ドッドミソラッララソラ」
ベースのメロディラインを耳コピーで口ずさむ。清宮は絶対音感の持ち主だった。三歳から中学に上がるまでピアノを習っていた名残だ。
パジャマを脱いでパンツ一丁になり、箪笥から伸びに伸びた長袖Tシャツと、色の褪せたジーンズを取り出して着替える。今日もゴミ拾いの日。汚れてもかまわない服を選んだ。
次に清宮は、寝室の窓を開けてみた。すぐにプゥンと、プラスティックを溶かした甘い臭いと、夏のごみ置き場の臭いが漂ってきた。清宮は窓を閉めた。今日の風向きは最悪だ。
――こんな臭い部屋、もういや。引っ越そうよ。
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