それでも……

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それぐらいしか僕に出来る事は無い。どのみち、プロを相手に逃げ回ったところで殺されるだけだ。 僕は腹を括ると、相手の銃撃が弱まった瞬間を見計らって塹壕から飛び出した。 ――瞬間 無数の弾丸が、僕の身体中を穿っていった。 ――身体中が熱い。 ――千切れ飛んだ右腕が特に熱い。 ――両足もズタズタで立てそうにもない。 僕はもう駄目だろう。現に、プロ達は放って置けば勝手に死ぬ僕に無駄弾を使ってこない。 こんな所で死ぬのかという諦念と、ようやく終われるという安堵感に包まれながら、僕は地面に背を預け仰向けになる。 ――青空だ。 遮るものがない、突き抜ける様な蒼い空が広がっている。 濃淡の蒼いグラデーションで彩られたキャンバスに、乱雑に真白な雲が描かれている。 雲達は陽光に照らされ、真白、陽の色、陰で存在感を主張してくる。それらが風に流れる事で、自由自在にその身体を変化させていく。 いつから、空を見上げていなかったのだろう。寒気に支配され痛みを訴えなくなった体を横たえて、僕は思う。 そして、この空を見上げた事で僕の中に産まれた感情は何と呼べば良いのだろう。 欺瞞に満ちた僕の人生は、薄汚れたなんて表現が生温い酷い人生だった。出会った人間だって、人間未満か人間失格か人間を辞めた様な奴ばかりだった。そんな連中を何人殺したかも覚えていない。だけど…… ――それでも ――――それでも世界は 「……それでも世界は、こんなにも美しい――」 僕は最後に、何も映さなくなった眼から一筋の涙を流した。
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