塩屋

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「海の星…。見に行きませんか…」 寝ている筈の彼女が突然そう言った。 僕は彼女の顔を覗き込んだ。 「海の星…。知ってますか…」 彼女は目を開けていた。 『海の星』彼女が好んで読む作家の短編のタイトルだ。 彼女が読んでいた本は必ず読む事にしていたので、もちろん知っている。 電車は塩屋駅に入って行く。 彼女は僕の手を掴んで、立ち上がった。 「行きましょ…」 僕は彼女に手を引かれるがまま、塩屋駅に降りた。 数人の客が塩屋駅で降りたが、僕と彼女はそのホームで手をつないだままじっと立っていた。 「昨日、私たちの話、聞いてたでしょ」 彼女は僕を睨む様に訊いた。 僕は俯いて、 「聞こえてしまったので…つい。すみません」 そう言って顔を上げた。 「ひどい」 と彼女は言う。 そしてすぐに、 「じゃ、ないな…ズルい。かな…」 そう言って微笑んだ。
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