塩屋

5/27
前へ
/27ページ
次へ
電車に乗り込んできた彼女はいつもの場所、つまり僕の前に立ってつり革を握った。 この駅は普通電車しか止まらず、乗り込んで来る乗客も多い。 この駅で電車はほぼいっぱいになる。 上下黒のパンツスーツに赤のバッグ。 予想は的中した。 そして彼女もバッグから文庫本を出して開いた。 彼女もブックカバーを付けていないので何を読んでいるかが見える。 ある女流作家の作品を読んでいる事が多い。 SNSの着信があったのか、スーツのポケットからスマホを取り出して、文庫本の上に重ね、返事を返している。 ネイルを施した長い爪で器用に文字を打つ。 僕はそれを文庫本を読みながらいつも見ている。 駅に着く度に乗客は増えるが、彼女はその位置を譲る事無く、つり革を握っている。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加