塩屋

8/27
前へ
/27ページ
次へ
その日は残業で帰りが少し遅くなった。 「おい、宮本。ちょっと行くか」 課長が酒を飲むジェスチャーをしながら言う。 それを丁重に断り、会社を出た。 もう日が暮れると少し寒い季節になってきた。 そろそろ薄手のコートでも出すか…。 いつもの様に改札を抜けてホームへと上がる。 帰りは来た電車にその日の気分で乗る事にしている。 ホームに普通電車が入って来たのでそれに乗り、端の席が空いていたので、そこに座った。 ドアが閉まる瞬間に三人の女性がかけ込んで来た。 「危険ですので、駆け込み乗車はおやめください」 と社内にアナウンスが流れる。 「怒られたね」 一人の女性がそう言って笑っていた。 僕は文庫本を出して顔を上げた。 するとそこにはいつも朝の電車で見る彼女の姿があった。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加