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忘却の彼方
手書きで綴られた「青い双子」の物語。気がつけば頬は涙で濡れていた。
私達の愚かで愛しい関係は、わずか百五十ページにも満たない小さな物語で終わってしまうのだと。
そして兄であり恋人であった蒼衣は、私達の未来を予測していたことに驚いた。
分かっていたのなら、終わらせない未来もあったかもしれないのに――いや、それは現実を知った今だから言える言葉。私がこの物語をもっと早く知っていたら、私は兄の気持ちを受け止め続けようと思うだろうか?
「……どうかな。」
自信は、ない。たぶん同じ結末をなぞるだろう。許されざる関係ではなかったのだから。私達は。
本を持ってそっと庭に出てみる。冷たい風が気持ちいい。東京と変わらない風。
兄の遺品であるこの本を、私は祈りを込めて燃やした。
煌々と輝く炎の色が揺れて美しいと思った。もっと焼け。灰すら焼き尽くすほど完膚なきまでに。
紙が焼ける臭いと、風に散っていく灰。嫌なことは風に流してしまえばいい。なかったことにすればいい。
私の中から蒼衣が消えることはない。消えるとしたら私が死ぬときだ。その日まで幸せだった日々だけを考えて生きていくよ。
本は跡形もなく風に散った。灰も残らず飛んでいった。この悲しみが混じった風が、いつか私の元に再び吹いてくるまで、おやすみなさい。
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