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帰省
「……ただいま。」
「おかえりなさい、青子。久しぶりねぇ……。葬儀以来かしら?」
「……そうね。」
築二十五年の色褪せた外壁、あまり手入れのされていない庭。周囲にビル一つない田舎町に、我が家はある。
普段は東京で働いているが、今日は二回忌というこうことで地元に帰省していた。母の言う通り、葬儀以来一回も訪れていない地元だが、あの日と全く変わらない風景が広がっていることに少し安堵する。
家に上がると、懐かしい匂いがした。少し古びた壁の匂い、草木の匂い、家族の匂い。そして、仏壇の線香の匂い――。
「……お線香、あげたら?」
「……うん。」
線香の束から一本そっと抜き取り、マッチで火をつけ仏壇に手向ける。あの独特の匂いが鼻につき、兄が亡くなったことを改めて認識させる。
仏壇の前に正座し、目を閉じ、祈るように掌を合わせる。まぶたの裏に浮かぶのは生前の記憶。それは大学時代一緒に暮らした狭いアパートでの、最期の会話。
色褪せることのない後悔の欠片だった――。
「夕飯の買い物してくるから、青子は留守番よろしくね。お父さんも行くから。」
「はーい。」
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