この人、知ってますか?

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「礼門さん。すみません、本を貸してください」  そう言ってふすまを開けた浅田侑平だったが、部屋の主である結城礼門の姿はそこになかった。 「あれ?さっきまでいたはずなのに」  どこに行ったのかなと腕を組みつつ、部屋の中へと目を向けた。相変わらず、いつ見ても壮観としか言えないほど本がある。壁一面に積まれた本の山たち。さらに生活スペースを浸食し、もはや礼門はどこで寝ているんだと言いたくなる、床に散らばった本たち。  寺の二階であるこの部屋に、こんなに本を積んでいいものかと、悩まないではない。そのうち、二階が重くなりすぎて、寺が倒壊するのではないか。そんな懸念も生まれる。向かいの部屋に住む侑平としては、かなり心配なことであった。  しかし、ここにある本は、礼門が千二百年生きてきた証でもある。彼が時代に対応するために勉強した証。今は物理学の准教授だが、かつては医者だったこともある。しかし、その本業は陰陽師。なんとも複雑な御仁なのだ。 「さすがに勝手に探すのは拙いよな」  で、侑平がここに来た理由は、物理学の本を借りるためだ。一応、侑平は物理学科の学生。妖怪ばかりに構っていられない。真面目に勉強、と気合いを入れるために借りるのだ。 「ん?」  そんなことを考えていたら、一冊の本が目にとまった。やけに古く、そして妙にくたくたな一冊。明らかに他の本とは違う感じだ。
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