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「それで、ファインマンの教科書に関する本だったな」
「あ、はい」
侑平がここに来た理由もちゃんと覚えていると、礼門は笑った。しかし、侑平の手にある本を見て固まる。
「あ、あの。勝手にすみません」
「いや。最近は見ていなかったなと思っただけだよ」
侑平が差し出した本を、礼門は懐かしそうに受け取る。が、その本をぐにゃっと折り曲げてしまった。
「れ、礼門さん」
「今思い出しても腹が立つ。さっさと燃やしとけば良かった」
「--」
聞かない方がいいんだろうか、そんな思いもする一言。礼門も侑平が横にいたんだと、気まずそうだ。
「その本、ひょっとして妖怪ブームの火付け役とか」
「ああ。そのとおり」
さすがだなと、礼門は褒めてくれるが、心中が穏やかではないことは、すぐに見て取れる。よほど江戸時代にイライラしたらしい。
「あの」
「本の作者、つまりこの妖怪画を書いた奴が腹立つんだ」
「作者?」
ブームではなくと、侑平は首を捻る。礼門は今でも有名人だという事実も腹が立つと付け加えた。
「有名」
とはいえ、侑平は知らなかった。というか、妖怪は実際に見えてしまうため、そういう類いの本は見ない。見ると
「あ、それ。俺」
とか、余計なちょっかいを出されるからだ。
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