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B「何やっているんだ!」
ハラハラと舞う雪の中、レンズを覗き込んでいる彼女を見つけた。
A「……記録」
顔を上げた彼女はただそれだけの、いつも通りの答えを返してくる。
B「記録って……そんなことしてる場合じゃないだろ。準備は出来てるのか?」
A「うん。これ」
これ、と指差す足元にはボストンバッグが一つあるだけだった。それにはさすがに驚く。
B 「はあ!?こんなので足りるわけないだろ!地下に避難してから食料が支給されるまで数日かかるし、インフラだって完全じゃないんだ」
世界は、地上はもうすぐ終わる。
二年前の冬から止まらない雪はあらゆる生命を絶滅させた。そして、とうとう人間の命も蝕む。気温がどんどん下がり、外で食物も家畜も育てられなくなった。もうすぐ外に出ただけ人間が凍る気温になる。
そうなる前に政府は国民を地下に逃すことにした。二年の間に住居と気温調節機能と太陽に変わる照明が準備され、巨大都市を作ることに成功した。
しかし、まだ完成には程遠い。政府が思っていたよりも気温の低下が早かったのが原因だ。
移り住んでからしばらくは各々が持ち込んだ食料などで生活しなくてはならない。
こんなカバン一つじゃ数日分の着替えしか入らないはずだ。
A「大丈夫」
B「 大丈夫なわけ……」
A「行くから。世界に。記録する」
いつもと同じ声で、いつもと同じ顔で、彼女はそう言った。
B「……なにいってんだよ」
A「失くしたくないから。忘れてほしくない。この世界が綺麗だってこと」
写真は記録なんだと、いつも言っていた。美しいものを残すための記録なんだって。
B「そんなの……おまえがすることじゃないだろ?」
A「したいの。好きだから」
記録を残すためにカメラはある。夢はプロのカメラマン。ずっと昔から彼女は言っていた。
B「止めても、ムダ、だよな……」
それこそ無駄な足掻きだとわかっているけど、聞かずにはいれない。
A「ごめんね」
そして彼女は期待通り笑い、カバンを持って旅だった。
数十年後、地上を歩けるスーツが開発され、数人の学者たちが地上を調査した。
調査隊が持ち帰った中に、一台のカメラがあり、その中身は貴重資料として政府が保管することになった。
一瞬でもいいから、彼女の記録を一目見たかった……
END
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