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(失恋、かぁ)
どこかでそうなるような気がしていた。佐山が透をみる横顔をずっと眺めてきていたからだろうか、彼のその視線の意味を知っていたけれど気づかないフリをしていたのだろう。
(……かないそうにないなぁ)
彼が透を想う気持ちにも透にも敵わない。
和はタオルに顔を埋めると声を殺して泣いた。
泣いて赤くなった目を温めたタオルで押し当てたあとに冷たいタオルで冷やすを繰り返しながら、二人のために野菜スープを作る。
すると、匂いにつられたのか着替えた透がひょこりと顔を覗かせた。
「わー、和の野菜スープだぁ!」
「……透にぃは、危ないから台所に入らないでください」
「お兄ちゃんにむかって酷い」
いつもの不運を発揮して火傷や怪我をしたら大変だから言ったのに子供のような言葉を返され、ため息をはいた。
「和、いつもごめんね」
「……慣れたからヘーキ。それより俺はいつも言ってるでしょ、ごめんねじゃなくて」
「ありがとう」
透に後ろからギュッと抱きしめられる。危ないと何度言ったらわかるのだろうか注意しようと口を開くが、言葉は音にはならなかった。
「和、大好き」
その言葉で、仕方ないなぁと思ってしまう和は兄に対してなんだかんだ甘いのだと思う。
「ねぇ、透にぃ」
「なに?」
「いま、幸せ?」
「幸せ、だよ」
蕩けるような笑顔で透はそう言った。ドジで不運な兄が一生しあわせであれと願いながら、和はコトコトとあたたかい野菜スープを煮込んだ。
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