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きっかけは、幼いころ転んで大怪我した俺を背負って家まで送り届けてくれた時。わんわん泣きわめく俺に優しく声をかけながら、おぶってくれた。
その背中の暖かさに、恋をした。
「うん、今日も完璧」
手にはカビとり用のバス洗剤、もう一つの手にはデッキブラシを持って、鈴原和は、今日も楽しくお風呂掃除を完璧にこなした。
和は、自他ともに認める潔癖症だ。そうなってしまった理由は色々あるけれど一つは、もうすぐ帰ってくるであろう彼の兄のせいだ。
「ただいまー」
「透兄ぃー! そこで待っててー」
元凶の一つが帰ってきた。和は急いで用具の片づけ、タオルとアルコール液、それにスリッパを持っていく。今日の被害がいつもより控えめなことを願いながら。
「ごめんね、和」
「すまん」
玄関へ向かうと透からの謝罪の言葉なんて耳にも入らなかった。いつものごとく透の姿は酷いものでビショビショに濡れていた。けれど、和が驚いているのはそこではない、透のその隣、同じくビショビショに濡れている幼馴染であり和の想い人の佐山祐介が立っていたのだ。
「これは、いったいどういうことかな?」
透だけでなくどうして彼もびしょ濡れなのだと笑顔で聞けば、透は小さく悲鳴をあげながら佐山の袖を軽く握る。
「え、あの、ちょっとだけ川原で話してたら野球ボールが飛んできて……返そうと思って投げたんだけど」
「足滑らせて、川に落ちそうだったから支えようとしたんだが支えきれなかった。俺のせいで、すまん」
佐山が謝るのを和は必死にとめた。すべて悪いのは、不運でドジな透のせいだ佐山が謝る必要はない。透が佐山に謝るならまだしも。
「すみません、うちの兄貴が……。祐介さんは、このタオルとスリッパ使ってください。まだお湯はれてないので、シャワーだけになりますが、先に入っちゃってください」
「すまんな……借りる」
「透兄は待って、俺とお話ししよう」
一緒に上がろうとした透を制して和は、佐山をお風呂場に案内する。そのついでに透へのタオルを持っていくのを忘れない。佐山の着替えをどうしようか考えつつ、これからやることの多さにため息を吐いた。
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