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男同士のカップルが自分たちの子供が欲しいと思った。養子をとるのではなく実の子が欲しいと望んだ。彼らには金があった。莫大な資産があった。親から受け継いだものか、自力で築いたものか区別はつきにくかったが、ともあれ多額の研究費を選ばれた優秀な研究者に注ぎ込めた。 彼らにやらせたのは精子と卵子からではなく、精子と精子から受精卵を作る研究だった。 精子の中には減数分裂した染色体がある。通常ならば卵子の中のやはり減数分裂した染色体と結びつき複雑に組み替えられて新しい染色体=遺伝子が誕生する、それと同じことを精子同士でやらせるというアイデアの実現を目指した。それはカップルのどちらかから、あるいはどちらともなく出てきたアイデアのようでもあり、研究者の方からそれに近いものがすでに提示されていたのに乗ったのかもしれなかった。もとよりすべては「彼らの」子供を作るためであり、動物実験はもちろん行われたが、実際の彼らの精子が積極的に使用された。 誰がどんな意図でそれくらい彼らの協力関係は緊密だった。 紆余曲折はあったが、ついに男同士、精子同士の組み合わせから人間が産まれた。 男の子だった。DNA鑑定でもオスと鑑定された。こうして、男だけで生殖・繁殖できる世界が可能性としては現出した。 だが、何も変わらなかった。
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