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結果として、ななせは山のようにあった仕事を、予定より十分早く終わらせた。
気怠げに椅子の背にもたれて珈琲を啜り、私の焼いたガトーショコラの欠片を口に放る。咀嚼し、飲み込んで、ニヤリ。
「また腕を上げたね、花音」
「そう?何度も焼いているから、もう慣れたものよ」
微笑んで見せてから、カップで口元を隠す。卑屈に歪む唇を。
「花音先輩のお菓子は最高です!」
「特にガトーショコラ!先輩のお菓子が食べられるだけでも、生徒会に入った甲斐がありましたぁ」
「ふふっ、ありがとう」
「こんなに美味しいんだから、小倉さんも食べればいいのに」
「私はいいのよ。みんなが美味しいって言ってくれるのが何よりのご褒美だもの」
いつもの台詞を口にすると、いつも通り、天使だとか女神だとかいう叫びが上がった。
そう、私は食べない。
ガトーショコラなんか、本当は嫌い。濃厚で苦いケーキは苦手だ。私が好きなのは、マシュマロみたいな甘くてふわふわした食べ物。
けれど、ななせの好物だから作り続けている。ななせ好みの味という点では、今ではそこらのケーキ屋よりも上手くなった。
本当はガトーショコラなんか焼きたくない。ななせの顔なんて見たくない。それなのに、真逆の行動を繰り返しては勝手に傷ついている。馬鹿みたい。
胸の内に溜まった毒を搾り出して、ケーキに混ぜて焼いてしまえたら、どんなに清々するだろう。
苦しくて、苦しくて、死んでしまいそう。
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