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「花音。顔色が悪い」
ひやりと冷たい感触が額に触れた。
いつの間にか隣に来ていたななせが、私の顔を覗き込んでくる。
「隈ができているし、肌もやや荒れている。寝てないんじゃないか?」
「そう、ね。少し寝不足かもしれないわ」
「私が言わずともわかっているだろうけど、無理はしない方がいい。君は体が……」
ガシャン。
何かが砕け散る音が、ななせの声をかき消した。
華やかな香りと共に、赤みがかった液体が床に広がってゆく。冷たい静寂が落ちた。
遅れて、自分の手がカップを叩き落としたためだと気づく。慌てて破片を拾い、指を切った。
「痛っ」
「大丈夫ですか先輩!ああっ、血が!」
「俺が片付けとくんで洗ってきてください」
「そうさせてもらうわね。ごめんなさい」
じくじくと痛む指を押さえ、逃げるように部屋を飛び出す。
信じられない。みんなが見ている中で、ななせの言葉を遮るためにカップを落とすなんて。どうかしている。
ああ、でも。それでも。
「貴女にだけは、言われたくない。……言わせない」
締めつけすぎた指から、赤い雫が滴った。
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