シェン・イーロン その4

3/6
42人が本棚に入れています
本棚に追加
/111ページ
スーは髪が白く、とても中東系には見えない。 だが、検問の兵士はまったく疑わずに私たちを中へ入れてくれた。 こんないい加減なのに、と私は思った。 しかしゲリラの資金力では、武装と食料を集めるのが精一杯で、セキュリティの事まではお金が回らない。 なによりこんなに堂々と入ってくる敵も、私たち以外にいないだろう。 「運転を代わりますよ」 サンが気を使ってくれて、私は荷台へ行き、リャンが助手席に座った。 荷台から感じる夜の風は心地いい。 しばらく町の中を車で走っていると、夫婦の死体が見えた。 その夫婦は抱き合って死んでいた。 殺されても抱き合っているなんて、きっとすごく愛し合っていたんだろうなぁ。 私はまた妄想する。 ……あの夫婦。 どっちがより愛していたのだろう? 旦那さんかな? 奥さんかな? 私と父さんなら、当然私だ。 でも本当は、私があの人を愛するくらい愛して欲しい……。 それはちょっと欲張りすぎかな……。 気がつくとスーが私の顔を凝視(ぎょうし)していた。 「どうしたの、スー?」 「……とぅさぁ」 どうやら私の妄想は、スーに気づかれてしまっていたようだ。 私たちは適当なところでピックアップトラックを止めた。 帰りも使いたいので、鍵は抜いて持っておくことにする。     
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!