act.38

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 ここで今日は、年に一度トップシークレット扱いで行われる公安部の辞令式が行われることになっていた。窓には全てしっかりとブラインドが下ろされ、完全外部と隔離された状態で行われる。  警視庁の人間も、ほとんどの者はこんな建物の存在を知らないし、ここでこのようなことが行われていることも知らない。  大会議室に入ると、男は部屋の中ほどにいた中年男に声をかけた。 「安部さん、お久しぶりです。その節はどうも」  トレードマークの無精ひげを剃り落とし、さっぱりとした顔をした安部が、男を見たなり、顔を顰めた。 「お前~。・・・久しぶりもくそもあるか。先月会ったばかりだろう。もっとも、互いに正気では会えなかった訳だが」  そんな皮肉を聞いて、男 ── 香倉は、苦笑いを浮かべる。  防弾チョッキを着ていた安部の心臓に向かって銃弾を撃ち込んだ香倉はもちろん正気ではなく、香倉が正気に戻った時には既に、安部は銃弾を間近に受けた衝撃で気を失っていた。 「危うく、かぁちゃんとガキを路頭に迷わすところだったんだぞ。今度カツ丼奢れ」  それを聞いて、香倉は笑った。 「公安の特務捜査員が、他の職員に食事をご馳走する訳にはいかないでしょう」  ま、それもそうだ、と安部が笑う。  だがふいに、安部の顔から表情がなくなった。 「それでお前、あいつの葬式は終わったのか」  香倉は、安部から少し視線を外した。     
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