1257人が本棚に入れています
本棚に追加
だが右目の目じりの下に黒子がひとつあり、唯一色気臭いところがあるとすれば、その黒子だった。警察病院の看護婦でも、色事とは到底縁遠い櫻井を捕まえて「あの黒子が可愛いのよ」と黄色い声を上げる娘は多い。
櫻井は決して愛想のいい男ではない。したがって、彼を心底嫌う者、そして彼を心底好いている者とがはっきりと分かれる。前者は、櫻井の怖いぐらいに己に正直な彼の生き方が鼻につくといい、後者は、無口な中にも直向で純粋な櫻井の輝きに恋焦がれるのだ。
「ヌードというのは・・・大げさでしょう」
櫻井の言い草に和泉が目線を上げると、額にガーゼやらバンソーコーが貼られ、頬にもかさぶたができている酷い有様の櫻井が、無表情ながらも目じりを少し赤くしているのが見えた。
いつも真面目な櫻井のそんな不器用な表情を見ると、オバサンは少々からかってやりたくなる。
「半年前、アンタが背中刺されてここの救急に運び込まれた時、救急処置室でアンタのパンツ切ったのアタシだからねぇ。櫻井は小柄だけど、アソコは立派なモノがついてんじゃないよ」
今度こそ目に見えて櫻井の顔が赤くなった。
「はい、腕を出す!」
和泉が肩を叩くと、櫻井は憮然とした表情で、だが素直に左腕を差し出した。
和泉女史が慣れた手つきで注射針を刺しこみ、その後素早く傷を縫合する。
最初のコメントを投稿しよう!