act.01

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 だが右目の目じりの下に黒子がひとつあり、唯一色気臭いところがあるとすれば、その黒子だった。警察病院の看護婦でも、色事とは到底縁遠い櫻井を捕まえて「あの黒子が可愛いのよ」と黄色い声を上げる娘は多い。  櫻井は決して愛想のいい男ではない。したがって、彼を心底嫌う者、そして彼を心底好いている者とがはっきりと分かれる。前者は、櫻井の怖いぐらいに己に正直な彼の生き方が鼻につくといい、後者は、無口な中にも直向で純粋な櫻井の輝きに恋焦がれるのだ。 「ヌードというのは・・・大げさでしょう」  櫻井の言い草に和泉が目線を上げると、額にガーゼやらバンソーコーが貼られ、頬にもかさぶたができている酷い有様の櫻井が、無表情ながらも目じりを少し赤くしているのが見えた。  いつも真面目な櫻井のそんな不器用な表情を見ると、オバサンは少々からかってやりたくなる。 「半年前、アンタが背中刺されてここの救急に運び込まれた時、救急処置室でアンタのパンツ切ったのアタシだからねぇ。櫻井は小柄だけど、アソコは立派なモノがついてんじゃないよ」  今度こそ目に見えて櫻井の顔が赤くなった。 「はい、腕を出す!」  和泉が肩を叩くと、櫻井は憮然とした表情で、だが素直に左腕を差し出した。  和泉女史が慣れた手つきで注射針を刺しこみ、その後素早く傷を縫合する。     
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