act.01

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「マスコミとは報道協定を結んでいたが、その中の一社が逮捕の瞬間をスクープすべく本庁のやつらをマークしてたんだ。映像は小型のハンディーカムのものらしいけど、お前の血まみれカットはバッチリ。それがどういう訳か時間帯をずらして各局が同じ映像を何度も流し始めたんで、きっと国民の殆どがお前の勇姿を拝んだって訳さ。また時間帯もゴールデン・タイムだったから、効果は満点といったところさ。どの放送局もお前のことベタ誉めだったぞ~。でも反対に、署長はカンカン。もちろん本庁の奴らも。課長(オヤジ)は例のごとくだんまりを決め込んでいる。でもちょっと怒ってるかな、あれは」  後半のことについては櫻井も想像していたので平気だったが、さすがに前半部分は櫻井も困ってしまった。  ── なんだか、嫌な予感がする。  櫻井が顔を顰めた時、追い討ちをかけるように和泉女史が呟いた。 「やだ。今のうち櫻井にサイン貰っといた方がいい?」  櫻井は、まだ日の高いうちから帰宅を命じられ、傷だらけの身体を引きずって家に帰った。“家”といっても、署の敷地内にある待機所 ── つまり独身寮が住まいなのだからすぐだった。  署の前にはマスコミが陣取り、誘拐事件解決のヒーローの姿をスクープしようとハイエナのようにうろついている。そんな調子だから、独身寮が署内にあるのは好都合だった。ここにいる限り、追い掛け回されることはない。  案の定、その夜櫻井は発熱した。  突然多量に出血するなど、身体への刺激が多かったからに違いない。  和泉女史に言われた通り解熱剤は飲まず、汗をかく度にタオルで拭ってスウェットを着替えた。鏡に映った包帯だらけの自分の裸身を見る度に、「さすがに今回のは無茶だったかな・・・」と妙に客観的な目で考えたりもしたが、それが自分の性分なのだから仕方がないと思い直した。     
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