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多分、自分がこうまでして被害者達を助けるのは、あの時大切だと信じていたものを結局守ることができなかったからなのだろう。
── ある意味俺は、贖罪を求めているのかもしれない。二十年経った今でも。
櫻井は、食堂のおばさんが櫻井のために特別に作ってくれたオジヤを食べた後、すぐに寝床に潜り込んだ。
結局その日は一回もニュースを見なかった。
弟は、私を守ってくれようとしたのだと思います。
ああ。なんて優しい弟。
弟はまだたった七歳なのに、私のために父の喉笛へ小さなナイフを突き刺しました。
血が、たくさんたくさん出て、白いシーツがみるみる黒くなっていきました。
小さな弟はぶるぶる震えていて、その様がとても可愛らしかった。
大きな瞳がコポコポと赤い泡を吹く父の口元を凝視していました。
でも残念なことに、私はそうなることを望んでいなかったのです。
弟の、私を守ろうとしてくれた気持ちは嬉しかったけれど、私は父のあの感触が好きでした。
触覚を研ぎ澄まさせ、皮膚の細胞ひとつひとつに耳を澄ましながら、私は父を味わい尽くしました。
何度も何度も私の身体を撫でてくれたあの手。
それを奪おうとしたのは、弟。
ああ。この気持ちをどう表現すればいいのでしょう。
弟が、こんなにも憎いのに。
今やもう、私には弟しかいない。
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