act.01

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 群青色の制服に身を包んだ若い警察官が、会議室の前で直立不動の姿勢で立っている。  小脇に警帽を持ち、会議室のドア一点を見つめているその横顔は、静かで揺らぐことがない。  警視庁最上階の長い廊下を偶然にも通っていた老刑事は、「今時珍しい若者だ」と心の中で思った。随分長い時間そこに立たされているだろうに、青年はぴくりとも動かない。ピンと伸びた背筋は、まるで男の性分を現しているようである。今時の若者というよりは、まるで戦時中の兵隊のような痛々しい直向さが感じられる。  老刑事は、静かだが傷もつれの青年の横顔を見て、「ああ」と思い立った。 正装をしているから気がつかなかったが、男は、先日血まみれになりながらも少女を救った“あの”刑事だ。   退職を間近に控えている老刑事だったが、先日テレビであの青年の様子を見ていたら、たまらない気持ちになった。 老いさらばえたこの身体と心にもグイグイと刺さってくる正義感。情熱。自分ももう少し若かったら・・・。年甲斐もなくそう思ったものだ。   今も微動だにしない彼の静かな佇まいの中には、あの情熱が宿っているに違いない。青年を取り囲む空気が他とは違うように見えた。     
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