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今年の四月から新たに着任したばかりの刑事部長が質問をする。生粋のキャリア組である彼には、所轄の一刑事の行いなど、今まで気にも止めていなかったのだろう。
たった今書類を読み上げた若い管理官を挟んで、警視庁捜査一課長の米澤と潮ヶ丘署刑事課長の高橋が目線を合わせた。
「ええ・・・。ただし、大抵が、今回のような“本庁の指示を無視するような無謀な行為によって”という断り書きつきです。だから、今までに彼は警視総監賞に匹敵するような救出劇を行いながらも、結果的には処分されている。同期の警察官の中で、もっとも優れた働きをしながら、処分された数だけを見ると、最も落ち零れの刑事ということになります」
捜査一課長・米澤は、淡々と事実を述べた。
その発言に横から割って入ってくる男がいる。警察庁の広報部長・長内だ。
「しかし、今回の場合、マスコミが恰好の獲物として、櫻井をマークしている。民衆は、警察内部の事情はまったく理解しようとしません。傍目から見ると、櫻井は英雄ですよ。簡単に処分を決めてしまうと、またも警察批判の声が高まるやも知れない」
長内は、いつも警察組織の体面を基準として、その手の発言を繰り返す。
「う~む。そうか。なかなか難しい・・・」
刑事部長が頭を捻る。元々があまり苦労していない人だ。
「で、高橋、君はどう思うんだね」
米澤が、再び高橋に目をやった。
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