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潮ヶ丘署の刑事課長の高橋といえば、警視庁捜査一課長の米澤でさえ一目おいている。
ノンキャリア出身のたたき上げであるが、過去は警視庁捜査一課の敏腕刑事として数々の伝説を残してきた。ほぼ同期の米澤とは正に戦友であり、本来ならば、一介の所轄署の刑事課長なんて器に収まっている方が不思議な人間である。
会議室内の視線が、一気に高橋に集まった。
高橋はポーカーフェイスの表情のまま、煙草を一服吸って、重い口を開いた。
「私は・・・、処分すべきだと」
会議室中がざわめく。
米澤が、心底意外そうな顔をしてみせた。
高橋は大きく息を吐き出しながら、短くなった煙草をガラス製の灰皿に押し付けた。
「命令違反には変わりないのですから、処罰は必要です。組織にいる以上、兵隊は組織のコマとして動かねばならない。それはあれにも十分判っているはずです。マスコミの顔色を伺ってばかりいては、根本的な組織のあり方というものが、根底から崩れていく。秩序は、必要です。特に、我々のような組織には」
高橋はそう言って、会議室内の面々を一瞥したのだった。
「櫻井正道巡査部長。入りたまえ」
直立不動で立っていた櫻井は、制帽を小脇に抱えなおし、会議室に入った。
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