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あの女は、私が父親を奪った代わりに、弟を私から奪っていきました。それは私に対するあてつけだったのでしょう。
あんな自分の欲望のためだけに弟を連れて行った女に、弟を幸せにすることなんてできない。かわいそうな弟。
ああ、それにしても憎いのはあの女。
女なんて、この世から消えてなくなればいいのに。
| 第1章 |
櫻井正道の目には、被害者の少女の姿が確認できていた。
オレンジ色のソファーの隣には、犯人と思われる中年男が座っている。
「被疑者の姿、確認しました。現在内偵していたアパートの近くのファミリーレストランにいます。位置は、入口より比較的近い位置。窓際です」
『了解。そのまま監視を続けろ。本庁の捜査員がそちらに到着するまで待機。 ── おい櫻井、動くなよ』
最初は事務的に指示を伝えていた無線の声が、最後になると急に人間味のある口調にかわった。
「分かっています」と櫻井は無愛想に答えたが、その顔は僅かに笑っていた。
無線の相手 ── 高橋警部は、櫻井が席を置く潮ヶ丘警察署刑事課の課長である。いつも厳しいが、その中には温かさがあって、櫻井も絶対的な信頼をおいている。
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