act.01

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「櫻井」 「はい」 「いくら被害者が無事だとしても、お前が生きていないと何の意味もないんだぞ。そうでなくて、何が救助と言える。何が事件解決だ。お前はそのところの考えが、いつも抜け落ちている。十分に考慮せねばならん点だ」 「・・・はい」  俯く櫻井を見て、高橋は吸いかけの煙草を灰皿に落とした。ジュッという音が響いて、柔らかな煙が立ち昇る。 「十日間、十分に身体を休めろ。寮にいる限り、ハイエナ共にも追いかけられんですむ。十日も過ぎれば騒ぎも落ち着くし、身体の傷も十分癒えている筈だ。お前は、傷の治りが早い。戦士にも休息は必要だ。特に痛手を負ってもなお戦おうとするような、始末の悪い自虐的な戦士には」  櫻井ははっとして顔を上げた。エレベーターが到着する。  先に高橋が乗り込む。棒立ちになったまま、自分を見つめる若い刑事に、高橋がおどけた笑みを浮かべた。 「乗らんのか?」 「す、すみません」  櫻井は、慌ててエレベーターに乗り込む。  口では人一倍厳しいことを言う高橋だが、その実櫻井の身を一番に案じているのもこの高橋だった。   傷だらけの櫻井の心に、高橋の無骨な優しさが身に染みた・・・。
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