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事件に関する書類を受けとって、井手は刑事課に隣接する応接室に案内されて行った。
櫻井が自分の机に戻ると、机の上に足を投げ出して座っていた吉岡が口笛を吹いた。
「まさかあの井手靜が出てくるとはな」
「吉岡さん、知ってるんですか?」
「知らないお前の方が潜りだっつーの」
ま、お前はいつも被害者のことしか見てないからなと吉岡が呟いて、机から足を下ろした。
「井手靜、33歳。独身。検察庁の連中が絶対的な信頼を置く坂出メンタルクリニックの稼ぎ頭。隙のない的確な観察眼と綿密な分析力。精神医学界でも期待のホープで学会の信頼も厚い。大学に付属していない医療機関に所属していながら、学会での彼女の評価は特別だ。加えてあの美貌。様々な業界の実力者が誘いをかけているようだが誰にも靡くことがない。噂によると、男嫌いだって話になってる。あだ名は“鉄の処女”」
吉岡の話を聞きながら、櫻井は刑事課から見える応接室のガラス窓を見やった。
ブラインドの隙間越し、熱心に資料を読む井手の白い横顔が見える。
吉岡がボリボリと頬を掻いた。
「一年前の板橋での立てこもり事件覚えてるだろ。18歳のガキの事件」
「ええ。確か、刑事責任を追及できると有罪になった・・・」
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