1231人が本棚に入れています
本棚に追加
/467ページ
ヘンな表現だと井手自身思っていたが、それが一番しっくりくると彼女は思っていた。
「今、対象者と話すことはできますか?」
応接室の外に立っていた本庁の刑事に井手が言うと、その刑事はすぐさま取調室にとって返した。
中の様子を確認して井手を振り返る。頷いて見せた。
井手もそれに頷いて、取調室までの短い道のりを歩いた。
背中にあの若い刑事の視線が刺さっているのを感じる。
── これから対象者との戦いが始まるというのに。
子宮の奥が熱くなるような気がして、井手は男でも滅多に浮かべられないようなニヒルな笑みを浮かべたのだった。
噂の凄腕精神科医が取調室を出てきたのは、二時間後のことだった。
今日の午前中までで今回の事件の裏づけ調査は終了していたので、櫻井はずっと刑事部屋を出ることなく取調室の向こうの様子に神経を飛ばしていた。
時折、被疑者の「男が! あの男に命令されたんだ!」という狂気じみた悲鳴が聞こえ、この面談が難航していることが伺えた。
それにしても“あの男”というのはどういうことだろうか。
共犯がいるということか。
しかし、本庁や自分たちが調べ上げたところでは、被疑者・中谷由紀夫の後ろには誰の影も伺えなかった。
最初のコメントを投稿しよう!