1257人が本棚に入れています
本棚に追加
犯人は身代金を要求しているが、ターゲットになった家族と犯人の間には日頃からの接点はなく、犯人が少女を選んだ理由は、家が裕福であるという理由とは案外別のところにあるのかもしれなかった。
櫻井は歯軋りをする。
── 少女は、犯人から、想像を絶する酷い仕打ちを受けているかもしれない・・・。
櫻井は、その想像の先に行き着く結果に、深い怒りを感じた。
「おい、様子はどうだ」
電力会社の作業員の格好をした吉岡が、コンビニの袋を片手に下げながら帰ってきた。
「狙い通り、窓際の席に座っています」
「お前がファミレスの店長に掛け合った甲斐があったな」
櫻井は控えめに頷き、再びファミレスを見やった。
「しかし本庁の奴ら、遅いな」
吉岡がそう言うのを聞いて、櫻井は腕時計を見た。確かに遅い。
「もう食い終わるぞ・・・。押えるなら、アパートに帰る前までなんだがな」
櫻井は、「今しかない」と思っていた。犯人を確保するのは、今しかないと。
少女はもう限界にきている。次の機会を待っていたら、少女の人格が破壊される。
── もし万が一、本庁の奴らが来なかったら、俺が取り押さえる。
見かけは大人しそうな櫻井だったが、その眼は獰猛そのものだった。そんな両の眼で、犯人を睨みつける。
最初のコメントを投稿しよう!