act.38

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 神奈川県警の捜査員が現着した時に現場にいた人物は、北原正実と櫻井正道、そしてその通報者の三名で他に人影はなく、事件は北原と北原が関わっていると目される殺人事件を独自で捜査していた櫻井刑事の間でのみ発生したものと報告された。  その後、神奈川県警内を含む広範囲の停電事故が発生し、新規記録データ一週間分が消滅して大騒ぎになったが、幸運なことにその時は既に、警視庁に捜査の権限が移されていたため、神奈川県警の関係者は揃って胸を撫で下ろした。  何せ、あの雨の夜のことは、通報者の証言も名前も証拠も、その存在自体が“消えて”なくなってしまったからだ。  やがて、関係者の頭の中からも、第一通報者『香倉裕人』の名前は、消えてなくなっていった・・・。  男は制帽を被り、髪を整えると、白い手袋が填められた手でぴっちりととめられた制服のボタンをすっと撫でた。  ロッカーのドアを閉め、制服姿の他の職員に混じって、更衣室を出る。  廊下には、警察の正装に身を包んだ者達で溢れ返っていたが、廊下に無造作に置かれた数々の機械や部品の段ボール箱と見比べると、この光景には違和感が漂っていた。  ここは、都心から遠く離れた工場地帯の一角。  警視庁が秘密裏に管理している工場のビルだった。     
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