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あの人たちの遺伝子を受け継いで、ねぇさんを守ることもできなくて。
俺は、生きる価値がある人間になれているのかな。
翌朝、井手は坂出クリニックの院長、坂出実のオフィスに顔を出した。
今回のようなケースはもちろんのこと、普段受け持っている患者についても、朝に坂出とそれについて話し合うことはよくやっている。
坂出は、今回の事件に深い興味を示していた。
「で、どう思うんだ、君は。被疑者に責任能力はあると思う?」
「まだ、何とも言えませんが・・・。彼にある種の罪悪感はあったように思います」
「ほう・・・」
井手の向かいのソファーに腰掛け、坂出はコーヒーを啜った。
見かけは初老の人がよさそうなおじさんである。普通にしていても、いつも微笑んでいるようにみえる。だが、彼の実力たるや、凄まじいものがある。だからこうして独立しても、一代でここまでクリニックを大きくできたのだ。
抜け目がない男だが、人格者でもある。そうでなければ、井手も彼についていこうとは思わない。
坂出は、井手にもコーヒーを勧めると、ソファーにゆっくりと身を沈めた。
「自分が犯罪を犯しているという自覚はあったのだね?」
「ええ」
井手は、昨日の接見を録音したテープを再生した。
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