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「本庁は、犯人を甘く見ています。確かに犯人のプロファイリングは、気弱で高圧的な権力に屈してきたタイプと分析していました。事実、それは正しいでしょう。だけど、手負いの小型肉食獣ほど逆ギレした時が怖いんだ。アイツ、あんな軟弱な顔をしているけれど、間違いなく肉食獣ですよ」
「肉食獣って、お前ね・・・」
「吉岡さん、考えてみてください。現在やつは武器を携帯してませんが、その気になれば凶器になるものはヤツの手に届くところにごまんとある」
櫻井にそう言われ、吉岡は「あ」と声を出した。
確かにそうだ。
そこにはナイフだのフォークだの、わんさか・・・。
「行きましょう」
櫻井と吉岡は、犯人の死角になる角度からファミレスに近づき、小さな第二の裏口から店内に侵入した。
櫻井と吉岡が店内に入ると、そこは既に最も悪い状態で膠着してしまっていた。
店内は、一般客やウエイトレスの悲鳴が響き渡り、騒然としていた。
櫻井は、自分の傍の客達に落ち着くように声をかけると、例の窓際の席に目をやる。
犯人は窓ガラスに背を向け、少女の喉にフォークを突きつけていた。
案の定、犯人に感づかれたのだ。
「あ~あ」
櫻井の背後で吉岡が間の抜けた声を上げた。
「なにやってんだ、本庁のヤツら」と先を繋げたいところなのだろうが、本人達がいる手前それは口に出さない。
櫻井は少女の顔をうかがった。
少女は恐怖のあまり目を見開き、泣くことさえできずにいる。
櫻井の胸はズキリと痛んだ。
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