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「それ以上近づいてみろ! この子、殺すからな!!」
ひっくり返った声で犯人が叫ぶ。
その犯人に「観念しろ」と声をかけることしかできない本庁の刑事達の様子を見て、櫻井は苛立った。
「まったく、テレビドラマじゃねぇんだからさ・・・」
櫻井の横に身体を割り込ませ、吉岡が呟く。
「しかしやっこさん、ヤバそうな感じだな。どうする? 櫻井」
吉岡にそう言われる前から、櫻井の心積もりは決まっていた。
幸い、櫻井達のいる位置は本庁の連中より犯人に近く、しかも本庁の連中のことで頭がいっぱいになっている犯人は、作業着姿の櫻井の存在にまったく気づいていない。この距離なら、走って飛びつけば犯人を取り押さえられるかもしれない。仮に少女を男の身体から突き放したとしても、走った勢いで突けば分厚いソファーが少女を守ってくれるはずだ。
「くそ~! この子を刺して、俺も死ぬ!!」
状況は益々逼迫している。
男が、フォークを振りかざす。
「すみません、吉岡さん。先、行きます」
櫻井はそう吉岡に断って、走った。
それはまさに、永遠に近い一瞬。
フォークが宙を舞い、少女がソファーに蹲り、テーブル上のコップやパフェが倒れる・・・・・・。
次の瞬間。
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