act.01

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  永遠に近い静寂をガラスの割れる音がけたたましく引き裂いた。 「櫻井!!」  店内に、吉岡の叫び声が響いた・・・。  消毒されたピンセットが、またひとつ、ガラスの破片を皮膚から抜き取る。 「・・・あっ! つぅ・・・」  櫻井はそううめいた後、細く長く息を吐いた。額には、脂汗が浮かんでは流れ落ちている。 「まったく、アンタみたいな無茶ばかりする刑事をねぇ、ダメ刑事っていうのよぉ」  ガラスを抜き取った後の櫻井の太ももに消毒液を染み込ませたガーゼを押し付け、その女医はふてぶてしくそう答えた。  流石に今回は彼女も本気で怒っているようで、終始唇を突き出した表情のまま、黙々と櫻井の身体からガラスを抜き取っている。  ── そんな顔してると、益々渡辺えり子に似てる・・・・  櫻井はぼんやりとそう思ったが、それを言うと状況をより悪化させることは十二分に分かっていたのであえて口に出さなかった。  あのファミレスでの逮捕劇で、櫻井は主に身体の左半身に数ヶ所ガラスが刺さり、血みどろになったところを救急車で警察病院に搬送された。  一方犯人の方は、落下時に櫻井が犯人の身体をかばった為、手のひらを少し切った程度で、道路に呆然と座り込んでいるところを本庁の人間に逮捕された。     
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