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被害者である少女は、意外にも意識ははっきりしていて、ガラスまみれの道路から吉岡によって助け起こされる櫻井を、救急車に運び込まれるまでじっと見つめていた。
吉岡の話によると、別の救急車で搬送される最中、少女は何度も「あのお兄ちゃんと一緒の病院に行く」と言っていたそうだ。
それを聞くと、櫻井の心は平穏さをまた取り戻すことができる。
吉岡に助け起こされる間、櫻井もまた少女の顔をずっと見つめていた。
大きな瞳が再び生気を取り戻して自分を見つめていた。
今でも櫻井は忘れられない。
決して櫻井にまで届くことはなかったが、あの時少女が自分に向かって差し出した小さな手・・・。
それは確かに、自分に向けられた感謝の気持ちだった。
一瞬痛みを忘れた櫻井が少女に向かって笑顔を浮かべると、少女もまた美しい笑顔を見せてくれた。
それはほんの一瞬、二人だけが分かる出来事だったが、少女の身体だけでなく心も救い出せたことを櫻井は知ることができたのだった・・・。
「・・・うぅ・・・・」
左上腕部から一際大きい塊を抜かれて、櫻井はうめいた。
「あ~、ここは縫わなきゃダメだね。櫻井君、麻酔かけるから」
「・・・麻酔・・?」
額に浮かんだ脂汗を拭いながら、櫻井は和泉女史を見上げた。切れ長の目が二、三回瞬きをする。その表情を見て、和泉は顔を顰めた。
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