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act.01
| はじめに |
私は、確かに父親を愛していました。
父の手が私の肌を磨きたてるように、そして時には柔らかい絹の布を撫でるように触れていくのを、いつの時もじっと見つめていました。
父にされたことで、嫌なことは何ひとつなかった。何ひとつ。
だって私は、生まれた時からそういう定めに育てられてきたのですから。
父と私の性交に母は嫌悪の顔を見せたけれど、それは母の私に対する嫉妬からきていることを私はずっと知っていました。
醜い女。
だから私は、母をあの家から追い出してやりました。執着心の塊で、弱く、時に浅はかな女なんて、あの家にいらない。
父はかえって喜んでくれました。
父は裕福な人でしたから、母がいなくても家政婦を雇えば家のことで困ることはないし、何しろあの厭味たらしい惨めな瞳を見つづけなくても済むからです。
ただ、唯一心残りになったのは、弟のこと。
弟は、純粋で汚れなく、本当に私を慕ってくれました。まだ小学校の二年生で、とても優しかった。私が身体を差し出さなくても、弟は何も言わず私を愛してくれていました。
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