act.09

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「君も店で話を聞いて知っているだろうが、あの女は今回の殺人事件の被疑者二人と接点があった。むしろ、あの女が唯一の共通点と言っていい。普通、新人のホステスが指名を受けることは少ない。大抵が先輩のホステスのサポートについて、酒を作ったり、ボーイを呼んだりと下仕事をするのが通例だ。だが、あの女は例外だった。最初から指名がついた。しかも、中谷と橘の二人だけだ。その状況がどのようなものであったかは、判らない。丁度俺は店にいなかったからな。だが、大抵そんな扱いを受けると、他の従業員から不満が出てしかるべきであるのに、あの女の場合は違った。あの癖のある店の女たちは、口を揃えて加賀見が辞めてしまったことを惜しんでいる。まるで、何かに操られているみたいに・・・」 「操る・・・」  目の前の櫻井が、更に身を乗り出した。その目は、刑事の嗅覚で爛々と輝いていた。 「この事件のキーワードだな」  香倉がニヤッと笑みを浮かべた。  櫻井はその笑みを見て、自分が必要以上に熱くなっていることに気がつき、目の縁を赤くしながら身体をソファーに埋めた。 「 ── いずれにしても、加賀見の消息は途絶えています。恐らく管理官は、唯一残されたルートであるクラブオーナーに接触するでしょう」 「土居か・・・。あの女狐が素直に応じるかな・・・? あの女は俺でも扱いに困ることがある。それに、土居自体が何者かの力で操られていたとしたら・・・」  香倉がそう呟いた時、玄関のドアが開く音がした。  すぐに井手の姿がリビングに現れる。  井手は櫻井の姿を見て、素直に驚いて見せた。 「どうしたの? 櫻井君」  相変わらずの彼女の仕事着である真っ白いパンツスーツ姿が、薄暗い部屋に眩しかった。  井手は、肩にかけた大ぶりな黒いバッグを床に下ろした。書物が沢山入っているらしく、ゴトリと鈍い音がした。 「彼は、お前に用があるらしい」  香倉はそう言って、席を立った。     
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