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act.03
── 薄気味悪い事件だわ。
資料を読んだだけでこの事件の異常性は十分に伝わってきた。
そもそも、警察署に呼ばれた段階で、嫌な予感はしていた。
井手靜は、一通り資料を読んで内容を自分の脳髄の中にインプットすると、目頭を指で強く押えた。
被疑者に接見しなくとも、もう結果は現れているのかもしれない。
だが、物事をそんなに簡単に判断をしてはいけない。自分が身を置くこの世界は、特に。
井手は大きく息を吸い込むと、応接室を出た。
刑事部屋の男達の視線が一斉に自分に集まる。
そんなことはいつものことで慣れていたが、今回は妙にあの若い刑事の視線が気になった。
純粋で淀みのない美しい瞳だったが、彼には何か計り知れない闇が覆い被さっているように思える。 ── 酷く痛々しい何か。
井手は、日頃からなるだけ直感というものに頼らないようにしている。それは科学者としては当然のことだ。
だがしかし、井手が直感的に思うことは、大抵外れることがない。
きっと自分は、知るべき事実、知らなくてもいい事実関係なく、肌でそれを感じてしまう体質なのだろう。
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