act.03

1/10
1231人が本棚に入れています
本棚に追加
/467ページ

act.03

 ── 薄気味悪い事件だわ。  資料を読んだだけでこの事件の異常性は十分に伝わってきた。  そもそも、警察署に呼ばれた段階で、嫌な予感はしていた。  井手靜は、一通り資料を読んで内容を自分の脳髄の中にインプットすると、目頭を指で強く押えた。  被疑者に接見しなくとも、もう結果は現れているのかもしれない。  だが、物事をそんなに簡単に判断をしてはいけない。自分が身を置くこの世界は、特に。  井手は大きく息を吸い込むと、応接室を出た。  刑事部屋の男達の視線が一斉に自分に集まる。  そんなことはいつものことで慣れていたが、今回は妙にあの若い刑事の視線が気になった。  純粋で淀みのない美しい瞳だったが、彼には何か計り知れない闇が覆い被さっているように思える。 ── 酷く痛々しい何か。  井手は、日頃からなるだけ直感というものに頼らないようにしている。それは科学者としては当然のことだ。  だがしかし、井手が直感的に思うことは、大抵外れることがない。  きっと自分は、知るべき事実、知らなくてもいい事実関係なく、肌でそれを感じてしまう体質なのだろう。     
/467ページ

最初のコメントを投稿しよう!