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act.04
| 第3章 |
俺の過去の思い出は、とても重くて痛い。
家の中にはいつも、女の人の泣き声が響いていて、学校から帰ると俺は、真っ先に自分の母親を慰めなければならなかった。
母親の口から、父親に対する恨めしい思いを聞かされ続け、「どうかあなたはああいう風にはならないで頂戴」と追いすがられた。
痛みがなかった訳じゃない。
子どもだからって、なにも分からなかった訳じゃない。
父と母が言い争っている夜。俺はいつも、家の外にあるカシの木に登って両耳を塞ぎながら過ごした。
── ねぇさん・・・。
ねぇさんはいつも、物悲しげに佇んでいて、俺に「ごめんなさい」と何度も言った。
どうして謝るの?
「それはね、正ちゃんが大きくなったら分かるよ」
母からは、あからさまな憎しみを浴びて。
父からは、身体を奪われて。
そんな酷いことをする大人が、俺には信じられなかった。
でもね、ねぇさん。
俺も大人になってしまったよ。
身も心も、男になってしまった。
せめて、この身が、心が、汚れてしまわないように、懸命に生きてきたけど、どうなのかな、ねぇさん。
俺は、生きていてもいいのだろうか?
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