第一話「わが家は不可思議なことばかり」

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 チナの病室に着き、ひとつ深呼吸をした。 「お兄ちゃん、コクハク、コクハク。ワクワク、ドキドキ」  僕は口の前に指を立ててエマに「静かにね」と告げた。やっぱり教えなきゃよかった。  それでも小声でエマは「ワクワク、ドキドキ」と呟いていた。  病室の入り口に『飯波ちな』と名前が書かれている。  名前はひらがななのか。  僕は病室に入り、チナのベッドのほうへと歩みを進めた。  いた。間違いない。 「こんにちは、えっと飯波さん。僕、同じ小学校の六年の五十幡侑真です。わかるかな」 「えっと、えっと、五十幡エマだよ。ハンバーグ、覚えているかなぁ。バナナ牛乳、覚えているかなぁ。ねぇねぇ。もふもふ様は覚えているかなぁ」  エマが割り込んでチナのベッド横に行ってチナに問い掛けている。 「あの、私……。なんのことかわからない」  えっ、わからない。どういうこと。 「僕のこと、わからないのかな」 「ごめんなさい」 「えっ、えっ、うんとね、エマのことも忘れちったの」  チナは小首を傾げていた。なんだか混乱しているみたいだ。 「そんな、そんな、そんな」  エマは俯き狐神様をみつめていた。 「しかたがない。霊体になったときの記憶は覚えていないことはよくあることだ。寝ている時に見る夢と同じ感覚と言えばわかるか。まあ、これから友達になればいいんじゃないのか」  なるほど、そういう考え方もあるのか。 「エマ、そうする。チナちゃんとお友達になる。ねぇねぇ、いいよね」  チナの手を取りニコッと微笑んだ。 「可愛いね。エマちゃん」 「僕の妹なんだ。すっごく可愛いでしょ」  チナは僕にも微笑んでくれた。 「あっ、お兄ちゃん。真っ赤っかになっちった。あのね、あのね、チナちゃん。お兄ちゃんはね、チナちゃんのことが、〇×*%$#」  僕は気づくとエマを捕まえて口を押えていた。  チナがキョトンとした顔をしている。 「ごめん、なんでもないんだ。気にしないで。いててて。噛むなエマ」 「お兄ちゃんがいけないんでしょ」  チナがプッと吹き出していた。  僕は頭を掻いて苦笑いを浮かべた。
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