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エマは僕の手を振りほどいてチナの耳元で「好きなんだって。チナちゃんのこと」と小声で伝えていた。小声ではあるが僕にもその声は聞こえていた。
「ああ、またお兄ちゃん、顔が真っ赤っかだ」
「うるさいな、エマ」
「えへへ。真っ赤だな、真っ赤だな、お兄ちゃんのお顔が真っ赤だな~」
「エマ、静かに。寝ている人もいるんだからな」
「はーい」
エマは返事をしてすぐに大声を出してしまったことに気づいたのかギュッと口を噤(つぐ)んだ。
そこへ看護師が病室へ入って来て「静かにお願いしますね」と注意されてしまった。
「あっ、はい。ごめんなさい」
エマも「ごめんなさい」と口にしていた。看護師は頬を緩ませて頷くとすぐに行ってしまった。忙しいのだろう。
「チナちゃん、ごめんね、騒がしくて」
「ううん、大丈夫だよ」
「またお見舞いに来てもいいかな」
「うん、ありがとう」
「エマもまた来るね」
チナに手を振り病院をあとにすると「よかったね。きっとチナちゃんお兄ちゃんのこと好きになっちったよね」とエマがニコリとした。
エマはまったく。そうだったら嬉しいけど。
チナとのことを考えると、わが家に幽霊が来るのもいいことなのかもと思えてきた。けど、生き返れたからそう思えるのかもしれないけど。
なんだかこれから忙しくなりそうだ。
わが家が幽霊の道標になるのだろう。エマと狐神様と僕がきちんと成仏させてあげなきゃ。いや、できれば生き返らせたい。そうだ、もしかした家に帰ったら迷える幽霊が待っているかもしれない。
「エマ、帰ったらまた幽霊たちにおもてなししてあげなきゃね」
「うん、そうだね」
エマはまた歌い出した。
「真っ赤だな、真っ赤だな~」と。
まったく、もう真っ赤じゃないはずなのに。
***
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