そらよりとおくで君はふりむく――時速十万㎞ララバイ

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 ある日の放課後、俺は同級生の姫宮に、高校の空き教室へ呼び出された。  本当は俺は、この時間は期末試験の追試だったのだが。  しかし、他ならぬ姫宮に呼ばれたとなれば、優先順位は決まっている。追試どころではない。 「柴田君。私、君に告白したいことがあるの」  夕日の差し込む空き教室で、姫宮はそう切り出した。 「えっ」  俺は心底驚いた。  俺も姫宮のことが好きだった。高校に入ってからの一年間、ずっと。  まさか。  まさか……  俺は息を飲んで、姫宮の口が開くのを待った。  まさか。 「実はね。私、手で触れた物体を浮遊させることができるの」  そう言った姫宮の手のひらの上方で、シャープペンが空中にゆらゆら揺れている。 「……へ……へえ」  まさに、まさかの告白だった。  そして目の前で証拠を突きつけられては、信じるしかない。 「そして、来週、巨大隕石が地球に激突するんだけど」 「え、それって、ギリギリかわせて地球には影響がないってニュースで」 「それは、もうどうしようもないから国連が流した、パニックを防ぐための嘘。ミサイルで破壊したり、軌道を逸らすこともできないんだって。でも、唯一打てる手があるの」 「はあ」 「私が隕石を空中で受け止めて、浮遊させるのよ。NASAはもう私の能力を知っていて、計画を立案しているの」 「……それは……凄いな」 「問題は、私の浮遊能力は一ヶ月くらいしか持たないこと。それが過ぎれば、隕石はまた落ちちゃうのね」 「まあ……それなら、そうなるな」 「そこで、私が隕石を、地球レベルではなく宇宙レベルで浮遊させるの。そうすると隕石は地球の座標に左右されずに、宇宙空間で浮遊することになる。地球の公転の速度は時速十万㎞だから、すぐに隕石から離脱できるでしょう」  姫宮は腰に手を当てて胸を張った。  俺はとりあえず、素朴な疑問を口にする。 「うん……できるな。でも、それで姫宮はどうなるんだ?」 「私はたぶんそんなに器用に離脱できないから、隕石と一緒に宇宙に行く」  なに!?
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