そらよりとおくで君はふりむく――時速十万㎞ララバイ

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「……それって……!?」 「生還なんてできっこないから、あえて生身で行くの。宇宙に出たら、隕石は太陽の重力や慣性からも解放されてるから重量はゼロ。それを私が思い切り太陽と逆方向に蹴飛ばして追放する。そのまま窒息を待つのは嫌だから、酸素0%の空気ボンベを持っていって一気に吸って、気絶する作戦だよ。寝てる間に死ぬと思う」 「そんな……ばかな」 「その後は、宇宙の藻屑か、太陽で消し炭かな。行かないって選択肢はないんだよね。行かなくても地球ごと死ぬんだもん」  俺は絶句した。  告白は告白でも、思ってもいなかった内容だった。  気がつけば、俺は泣いていた。  伝えなくては。  姫宮にはいい迷惑かもしれないけど、どうしても伝えたい。 「姫宮。俺は……君が好きなんだ」 「え!?」 「ごめん。こんな時に、こんなこと。姫宮は大変だってのに」  姫宮は狼狽してのけぞっていたが、体勢を戻すと、咳払いした。 「ううん。むしろ、これからが本当の告白だったから。宇宙に行く前に、これだけは言っておきたくて」 「まだあるのか。なんだ、何でも言ってくれ。俺にできることなら、なんでもするよ。そんなに顔を真っ赤にして、何の告白なんだ?」 「柴田君、好きです」  俺たちは一週間の間に、色んなところへ遊びに行った。  面白そうな場所を見つけては足を運び、学校も完全にサボって、行きたいところへ行って、やりたいことをやった。  どちらかといえば優等生の姫宮は、時に遊園地で目を回し、時には動物園でゾウやキリンを見上げて、他にも今までに足を運んだこともないようなレジャースポットで大はしゃぎした。  しかし、俺たちのやりたいことを全てやり尽くすには、一週間はあまりにも短かった。 ■  次の月曜日。  姫宮は、大気圏に自らを浮遊させて隕石を迎え撃った。  端から端が見えないくらいに地球の空に接近した巨大隕石のド迫力を、俺は今でも鮮明に覚えている。  それが空中でいきなり消失した。時速十万㎞の地球に、宇宙へ置き去りにされたのだ。  姫宮と共に。
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