駅前の橋で

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 ビルの隙間から差し込む窮屈そうな朝日は、人々の存在を曖昧にする。果たして自分は本当にここに存在するのか、そんな当たり前のことでさえ分からなくしてしまう。  今日も僕はそんな朝日を背に浴びて、安物のギターで下手くそな歌を歌う。平日の朝、駅前の橋には忙しない足音が響く。目的地のある人々は、そこに向かって迷いなく歩き続ける。だが、ごく稀に僕の前で立ち止まり、僅かな時だけ僕の歌を聴き、じっと見つめてくる人もいた。 「へたくそ」  その中の一人が、それだけ言って立ち去った。でもそれでいい。へたくそでも何でも、この人込みの中で歌う時だけが、僕が存在できる唯一の時なのだから。  ギターをわざとらしくかき鳴らし、最後の詩を歌う。 「そして空を見上げた、眩しい朝日は僕を無に隠した」
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