駅前の橋で

3/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ビル群が作り出す無機質な明かりは、行き交う人間さえも無機質にする。果たして自分は人と違う生き方をしてきたのか、そんなことを思わせてしまう。  今日も僕はそんな明かりを背に浴びて、安物のギターで下手くそな歌を歌う。平日の夜、駅前の橋には忙しない足音が響く。帰る場所のある人々は、そこに向かって迷いなく歩き続ける。だが、ごく稀に僕の前で立ち止まり、少しだけ僕の歌を聴き、じっと見つめてくる人もいた。 「へたくそ」  その中の一人が、それだけ言って立ち去った。でもそれでいい。誹謗中傷であれ何であれ、僕の存在がその瞬間浮き彫りになったのだから。  ギターをわざとらしくかき鳴らし、最後の詩を歌う。 「そして空を見上げた、無機質な明かりが星を闇に還した」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!