駅前の橋で

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 アスファルトを打ち付ける冷たい雨は、過去に受け取った温もりさえも洗い流してしまう。果たしてあの人は本当に僕を想っていたのか、そんな懐疑心を抱かせてしまう。  今日も僕はそんな雨を身に浴びて、安物のギターで下手くそな歌を歌う。休日の昼、駅前の橋には忙しない足音が響く。会いたい人がいる人々は、そこに向かって迷いなく歩き続ける。だが、ごく稀に僕の前で立ち止まり、少しだけ僕の歌を聴き、じっと見つめてくる人もいた。 「へたくそ」  その中の一人が、それだけ言って立ち去った。でもそれでいい。冷たい視線で何であれ、その時だけ僕に視線を投げかけた人がいたのだから。  ギターをわざとらしくかき鳴らし、最後の詩を歌う。 「そして空を見上げた、冷たい雨はあの人の優しさを消した」
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