第1章

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 好き?もしかしてこいつ、恋をしたのか?それで試合に集中できないのか?いわゆる恋煩いってやつじゃないか。 「おいおい。誰だよ、その相手。俺も知ってるのか?」 「ああ」 「え?誰だろ……」  共通の友人・知人の顔を思い浮かべる。藤堂のタイプにはまりそうな女性を探そうとしたが、考えてみればまだ付き合いは短いのだ。彼の好みがどんなものなのか見当もつかない。そう言えば、球界の中でいろいろな選手の噂話を耳にするが、彼の女性関係の話は聞いたことがなかった。イケメンだし優勝争いをするチームのエースなのだから、モテないはずはないのだが。 「もしかして、有名人とか?」 「まあ、一応そうだな」 「女子アナか?」 「違うよ」 「アイドルか?」 「そんなんじゃない」 「じゃあ誰だよ。全くわからん」 「お前だよ」 「はい?」 「だからお前のことが好きなんだ」 「待て待て。そんな冗談はいいから正直に告白しろ」 「冗談でこんなこと言わないよ」  彼の顔は真剣そのものだ。 「お前のことは、このチームに来る前から気になっていたんだ。それが、同じチームになって、バッテリー組んで、それで、やっと気付いた。俺は、お前のことが好きなんだ」  俺を見る目が熱を帯びていた。 「藤堂。お前そっちの趣味があったのか?」 「実はそうなんだ。ずっと隠してたんだけどね」  道理で女性がらみの噂が出ないはずだ。しかしまいったな。悩みを打ち明けろと言ったものの、こんな展開になるとは想像もしなかった。私生活まで女房役を求められるとは。  困惑していると、彼は不機嫌に眉を寄せる。 「なんだよ。ひいてるのか?」 「違う違う。ちょっと驚いただけだ」 「そうなのか」  安心したよと言って藤堂は梅酒をちびりと一口含んだ。思い起こせば酒の席ではいつも、彼は果実酒やフルーティーなカクテルを好んで飲んでいた。 「で、お前の気持はどうなんだよ?」  悪いと言ったら怒るだろう。彼はチームメイトでありエースだ。この先ギクシャクした関係になるのも面倒くさい。だからっていい返事なんかできるはずもなく、 「あー。すまない。俺にはそういう趣味はないからさ」 「待ってくれよ」と藤堂は血相を変える。 「俺が勇気を出して告白したのに、っていうより、告白させといて、それを無下に断る気なのか?」
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